甲州牧丘に道祖神祭りを訪ねる 前回からの続きです。
日中に牧丘の奥地、公卿の隠れ里という「塩平集落」の道祖神祭を訪ねたが、
日が暮れた後は、現地を案内してくれているマキオカネイチャークラブのHさんに縁のある、
「生捕集落」の道祖神祭を訪ねることにした。
生捕集落の地名の由来は、15世紀に一時期甲斐国の支配権を専横した守護代跡部景家と、守護職武田信昌との戦い(夕狩沢合戦)において、跡部氏の兵士を生捕りにした土地だとか、武田氏家臣三枝某を生捕りした場所だとかの説があるそうだ。
実は昼過ぎにHさんの親戚宅にて昼食をごちそうになり、生捕集落の道祖神祭について話を伺ったが、今は若者が少なくなって獅子舞をやらなくなってしまったという。塩平は観光に力を入れているので獅子舞も継続しているが、牧丘といえども周辺の集落では獅子舞の継続は難しくなっているのが現状だそうだ。
そのような話を伺っていたので、生捕集落の獅子舞には期待していなかっただが、どんど焼きの前に集落の集会を行っている公民館を覗いてみると、なんとお囃子の音が。覗いてみると酒席の中央で、獅子舞を舞っている!


ここは親戚の強み、Hさんの紹介で集会にお邪魔して、写真を撮らせてもらった。
牧丘の道祖神祭を取材に来た写真家先生、と紹介されてしまったのには困ってしまったが、
意外な客人が来たので集落の皆さんも大いに盛り上がってくれたようで嬉しい限りだ。
照れながらも舞うおじさんたちの姿は、やはりまだ獅子舞を続けたいという気持ちを強く感じた。

獅子舞が終わり集会を中座して戻って来たのは、東の山から月が昇ってきたころだった。
暗くなってからがどんど焼きの本番。
お焚き上げが目印となり、迷うこと無く道祖神のもとに辿り着いた。
ここの道祖神も逞しい物をそそり立たせている。

火が大きくなるのを見守りながらお焚き上げを囲って談笑している。
寒い中、火を囲んでだらだらと語り、笑う。
ゆらゆらと揺れる炎は人の心を夢幻の世界に誘いこみ、人ならぬ世界との境界を曖昧にしていく。

全員の身体が火照って来た頃、「やれよやれろ」と声がかかる。
「飲んで身体が動かねえよ」と言いつつも、嬉しそうに獅子舞の準備が始まった。
道祖神の前で舞う獅子舞は久々だと言う。
客人が来たからだろうか、張り切ってくれているのだ。





肩で息をしながらも、舞ってくれたおじさまに感謝。
渾身の舞いに、きっと道祖神も喜んでいると思います。


そしていよいよ、どんど焼きは佳境に。
やはりここでもオカリヤを崩し、道祖神の顕現した姿(?)である藁の男根が引き抜かれた!



そして、火の中にくべられる。
炎は益々大きくなる。

酔ってのことかどうなのか、男根の軸になっている木材を抱えて何度も何度もぐりぐりと。
炎の中を男の逸物が何度も何度もかき回す。
なるほど、火のついたオカリヤはホトだったのか。
ナギとナミとの神産み神話。
陰と陽との和合の儀式。
そして生まれるマユ玉は、神聖なる神の子種。
どんど焼きが子供の祭となっていくのは自然な流れだったのだ。

祭の夜はまだまだ続く。
小さな谷間に転々と、道祖神の炎が灯り、あちらこちらから笑い声が風に乗って届いていた。

牧丘を案内してくれたマキオカネイチャークラブのHさん、そして見ず知らずの客を快く迎え入れてくれた生捕集落の皆さまに感謝いたします。
完
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