観音堂から舟廊下を渡り、都久夫須麻神社で参拝。
ご祭神は 市杵島比売命(弁財天)、宇賀福神、浅井比売命、竹生島龍神。
このうち市杵島比売命、宇賀福神、龍神は、弁才天・水神関係だとわかる。
浅井比売命というのはこの地の産土神。
雄略天皇3年(420年)に浅井比売命を祀る祠が建てられたことが、
この島の祭祀の起源であり、他の神仏は後から追加勧請されていった。
この地には浅井比売命にまつわる伝承が伝わっている。
多多美比古命(伊吹山の神)が、姪で浅井岳の神・浅井比売命と高さを競い、
負けた多多美比古命が怒って浅井姫命の首を切り落とした。
その首が琵琶湖に落ちて竹生島が生まれたという。
浅井岳とは(現在の金糞岳)のことだと考えられている。
金糞山は標高1317m、伊吹山は標高1377m、
金糞山に竹生島の標高197mを足すと伊吹山を越えるためだ。
竹生島に面する琵琶湖北東部は古くから浅井郡といわれ、
竹生島の祭祀を担って来た。
有名な戦国浅井氏はこの地が本貫地で、
前編でも書いたように、蓮華会で弁才天像を奉納したりと、
積極的に祭祀に関係しているようだ。
浅井氏のルーツは三条公綱の落胤説、物部守屋後裔説があり、
いずれにせよ定住した土地の名をとって浅井と称したのだろう。
浅井という地名なだけに、湖の底も浅いのかと思いきやそうではなかった。
竹生島の周囲は琵琶湖で一番深い場所で、最深部は104mに達するそうで、
実際は浅井なのに深いのだ…
都久夫須麻神社の向かい、琵琶湖に面した方には竹生島竜神拝所。
社殿の入り口には八大龍王拝所とあった。
崖の上に迫出した社殿で、先端には神棚があり、
中心に金の御幣、左右を玉に巻き付いた蛇が守り、
幾多の奉納品が所狭しと並べられていた。
拝所から琵琶湖を覗くと、突き出した岬の突端に鳥居。
船から我々を迎えてくれた鳥居だ。
琵琶湖に向かって願いを書いた土器(かわらけ)を投げ、
投げた土器が鳥居を通ると願いが通じるという。
鳥居の周りが白いのは、積もり積もった土器片の色だ。
かわらけ投げは、京都の神護寺が発祥で、
酒宴の余興から発展した厄除けとのこと。
同じものを秋葉山で見たことが有る。
他には比叡山、屋島でも行われているそうで、
江戸期の飛鳥山でも行われていた記録が有る。
さて、このかわらけ投げ。
私には他のルーツがあるように思えて仕方が無い。
竹生島から北に約2km、葛籠尾崎という半島の先端部。
この沖6mから700mから、縄文時代早期から平安時代の、
約140点の土器が発見されている。
葛籠尾崎湖底遺跡と呼ばれるこれらの土器は謎に包まれていて、
・湖岸遺跡からの「遺物流出説」
・祭祀(さいし)により土器を沈めた「祭祀説」
・船が沈没・転覆したため積荷の土器が沈んだとする「船舶の沈没説」
・葛籠尾崎の地滑りによる「遺跡の沈下説」
などが原因として考えられている。
このうち「祭祀説」と似たようなものを見たことがある。
http://miyokame.blog82.fc2.com/blog-date-200707.html
箱根芦ノ湖の湖上祭。
九頭龍神に捧げる供物の入ったお櫃を湖底に沈める祭り。
(ちょうど葛籠尾も葛クズ籠リュウだし…)
琵琶湖の最深部に眠る龍神に供物を捧げる風習が、
かわらけ投げと習合して続けられて来たのではないだろうか。
同行のPさんが神社の先が気になると行っているのでついていってみた。
弘法大師庵跡や荷揚げの船着き場があり、
その先になにやら意味ありげな赤い鳥居が。
他のメンバーからかなりはぐれてしまっていたのが気になったが、
誘惑には勝てず鳥居に吸い込まれていった。
鳥居の先は下り坂になっていて、階段が崖の下に続いている。
湖面がちらりと見えると、そこにはまた鳥居があった。
この先は湖面。
岩に沿って石段が水面下まで続いている。
禊場かと思っていたが、後で調べると「放生会斎庭」だそうだ。
6月14日の龍神祭の際、この場所から稚魚を放つ。
一般に放生会の起源は、『金光明経』長者子流水品、
釈迦仏の前世であった流水(るすい)長者が、
大きな池で水が涸渇して死にかけた無数の魚たちを助けて
説法をして放生したところ、魚たちは三十三天に転生して
流水長者に感謝報恩しことに因む。
また神仏習合により神道にも取り入れられ、
720年(養老4 年)戦において多くの兵の命を奪った罪への禊ぎとして
宇佐神宮で行なわれたのが放生会の最初とされる。
石鳥居には「奉納某氏」「己巳年己巳月己巳日」と大きく刻まれていた。
己巳の日は弁才天の縁日。
石鳥居は新しいようなので最近の該当日を調べてみたら、
平成元年の5月9日がそうだった。
その日に合わせて「某氏」は石鳥居を奉納したのだろう。
なにか某氏の執念にも似た信仰を垣間見た気がした。
穏やかな湖面が目の前いっぱいに広がる放生会斎庭は大変気持ちよく、
後から追いついたメンバーとともに、帰りのフェリーの時間も忘れて寛いだ。
賑やかな境内とは一線を画した静かな空間。
ふと湖底を見ると、ところどころに白い玉が見えた。
なるほど、これは龍神様のお供え物の卵だ。
すぐ近くの水の底に、龍神様が隠れているような気がした。