2011/06/15 (Wed) ご挨拶
2011/05/13 (Fri) 東北巡礼 その2
2011/05/13 (Fri) 東北巡礼 その1
2011/01/02 (Sun) 万治の石仏
2011/01/01 (Sat) 諏訪大社 蛙狩神事

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8月7日

山形県庄内地方が気温37度を記録した翌日、
出羽三山の一角、羽黒山麓の手向宿坊街を訪ねた。
宿坊・大聖坊が主催する山伏修行体験に参加するためだ。
去年に引き続き2回目の参加。
「おお、今年も来たか!がんばるな~!」
前回、ちょっとやらかしてしまったので、
星野先達は私のことを覚えてくれていたらしい。
星野先達は大聖坊の主。白い髭が仙人の様相を呈している老練の修験者だ。
続々集まってくる参加者。合計20名ほど。
大学生から還暦直前の人まで、老若男女が集っての修行体験。
真っ白の越中褌を着け、白の長着に白の括袴、脛には脛巾を着け、
晒布の宝冠を頭に巻く。宝冠を着けることで、大日如来の化身となるのだ。
そして紙こよりで出来た「注連(しめ)」を首にかける。
目を象った部分を背に垂らす。魔が入り込まないための結界だ。
白装束は死者を表す。全身白に包まれると、自ずと覚悟が湧いていくる。
これから二泊三日間、完全に俗世から離れるのだ。

14:00 峯中式
宿坊内の神前で名を確認。
「うけたもう!」
山中ではすべて返事は「うけたもう」。山伏の掟だ。
勤行を済ませ、いざ、山に向かう。

14:30 中台(拝所)とそう行
大聖坊 山伏修行体験


「おたーーーちーーーー」
「うけたもう!」
お立ち娘の声を合図に、一行は動き出す。
宿坊から列を作り、羽黒山に向かった。
羽黒山の参道は長い長い石段。
だが途中で道をそれ、土の道に入っていった。
道は悪いがそこがかつての参詣路。
松尾芭蕉が滞在したお堂の跡に到達。
木々の深い羽黒山中にもかかわらず、空に繋がる光の場所。
自然を感じながらしばしの休憩。
その後一行は三山合祭殿に到達。
ただし初日は遥拝だけで済ませ、宿坊に戻る。

17:30 床固め(坐禅)
つかの間の休息後、すぐさま床固め。
床固めとはすなわち坐禅。
壁と向き合い、坐る。
夕暮れの涼しい風が吹き抜け、蝉の声が心地良く響く。
うとうと…
ではない。雑念を捨て、ただただ坐る。

「床揺るぎ」「うけたもう!」
坐を解くことは床揺るぎ。すぐさま食事の準備にかかる。

18:00 壇張 (だんばり)
大聖坊 山伏修行体験


食事のことを、壇張という。
一汁一采の質素な食事だ。
修行の間はこの僅かな食事を餓鬼のように胃に流しこむ。
実は旨い料理なのに、味わうまでもなく掻き込むのが辛いところ。
あっという間に平らげて、撤収。

19:00 夜間とそう行
食事の後も行は続く。
詰め込むことで時を費やす。
日々、いかに自分が時間を無駄にしているかを思い知らされるようだ。
夜間とそう行。暗くなった夜道を、列を作って練り歩く。
闇夜に浮かぶ白装束。
きっと知らない人が見たら腰を抜かすことだろう。

21:30 南蛮いぶし
これぞ羽黒修験の醍醐味。
狭い小部屋に押し込まれ、七輪で唐辛子や米ぬかなどを燃やす。
刺激的な煙が充満し、喉を突き刺す。
一度呼吸が乱れれば、一巻の終わりだ。
息をすれば息をするほど煙が喉を刺激して、決して立ち直れない。
そんな中でお経を唱えるのだからたまったものじゃない。
行が終わるとみな一目散に逃げていく。
恐ろしい行だ。

22:00 勤行 (ごんぎょう)
醍醐味が終わって一日が終わるわけではない。最後は神前で勤行。
皆の祝詞や経が一体化したときの響きは最高に気持ちがいい。
特に羽黒の三山拝詞は節回しが美しく、心に染み入る。


00:00 就寝
一度経験していた余裕か、前回のように泥のように眠りにつくことはなかった。
むしろ興奮でなかなか寝付けず、漏れた明かりで一日の日記を認めていたほどだ。


二日目

4:00 起床
4:30 水垢離
5:00 床固め
5:30 壇張
6:00 月山・湯殿山とそう行
14:00 湯殿山滝行
17:30 床固め
18:00 壇張
19:30 夜間とそう行
21:30 南蛮いぶし
22:00 勤行
00:00 就寝

あまり修行の内容をつらつらと書くのはよろしく無いと思うので、
ここから先は大まかに。

朝、ほら貝の大音声で起きると、黙々と出発の準備。
羽黒山の祓川へ禊に向かう。

祓川 羽黒山神社


自然の川に褌一丁で浸かる。
これが、辛いと受け取るか気持ち良いと受け取るかは人によるのだろうが、
私には清々しい以外の何ものでもない。
寝ぼけ眼に冷水で、シャキっと目が覚める。
早起きに禊、なんて気持ちが良い朝なのだ。
二日目の醍醐味、月山~湯殿山とそう行に向け気持ちが引きしまる。

大聖坊 山伏修行体験


月山とそう行。
羽黒から月山は遠い。
体験修行ではマイクロバスで登山口まで行き、そこから山に入る。
去年は湿気を帯びた雲の中で、体中びしょびしょになりながらの登山だったが、
今年は青空こそ見えないものの、湿り気の心配もなかった。
月山は標高1984m。森林限界を超え、岩と潅木の道を歩く。
天気が良かったためか、行楽の人たちで賑わっていた。
「ぶおぉぉぉおぉぉぉぉぉぉ~」と法螺貝を鳴らし隊列を組む白装束と、
一般の登山客の対比が面白い。信仰の山ならではの光景。

大聖坊 山伏修行体験


月山頂上には月山神社が鎮座している。
大きな社があるわけではない。
過酷な環境に適したコンクリ作りの小屋に祭壇が設けられ、
一畳もない隙間に神官が常駐している。
神域に入るにはお祓いを受け人形に罪穢を移して水に流す。
修行者一行20名も入ると一杯になる空間で、一連の神事を執り行う。

昼食を入れ(本来は無いらしいが、初心者なので)、湯殿山に縦走。
湯殿山の中腹にある湯殿山神社へ向かうので、
尾根道を少し歩いた後はひたすら下り道になる。
途中までは沢に沿って降りていたのでなだらかだったが、
後半は急峻な崖に無理やり登山道を作っているので、もはや道ではなく梯子。
鉄梯子が連続して道をつないでいる。
手すりなど有って無いようなものだ。
地下足袋の柔軟性を活かして歩くとバランスが取りやすいのだが、
あまりに長いので足の裏が痛くなって堪えた。
(足の裏のツボを刺激されたとも…)

大聖坊 山伏修行体験


月山~湯殿山とそう行の最終目的地は湯殿山神社の御神体。
この世のものとは思えないものがそこには存在する。
まさに自然の神秘とはこのこと。
ただし、有史以来このことは口外厳禁になっている。
かの芭蕉翁さえ、こう詠むことによって
言いたくて仕方がない気持ちを紛れさせているのだ。
「語られぬ 湯殿にぬらす 袂かな」

口外できない御神体に直面し、心身ともに癒された後は、
体のほてりを覚ますが如く、滝行に突入。

大聖坊 山伏修行体験


参道から外れた茂みの中に入っていくと沢に出るので、
しばらく沢を遡って行くと、大きな二筋の滝にたどり着いた。
落差は10mほどだろうか。
豊富な水量は湯殿山の雪解け水を含んでいるからとのこと。

さっと装束を脱いで、禊の前の神事。
神道式に則った作法があるのだが、つまりは準備体操のようなもの。
去年は滝行自体が初めてだったのでおっかなびっくりだったけど、
今年は武術仲間でも滝に行ったりしていたので、平然と滝に入っていった。
最も水量が多いところに入り、岩の上で坐禅を組む。
あまり藻掻くことをせず静かに滝に身を任すと、
滝に抱かれたように、自然と身体が安定する。
ここ2~3日の猛暑日の影響もあってか、水自体も刺すような冷たさがない。
全くもって快適な状況に、長々と打たれ続けてしまった。

大聖坊 山伏修行体験


滝で一日の汗を流し、心地良い疲労感に、
帰りのバスでは熟睡。
斜めから挿し込む陽の光に、
「ああ、今日も一日が終わった…」

なんてことはなく、宿坊に帰った後も修行は続く。
床固め、壇張、夜間とそう行…
あれだけ歩いたのに、また夜道を歩く…
しかも、二日目は少しハードに山の中にも入ったり…

大聖坊 山伏修行体験
大聖坊 山伏修行体験
大聖坊 山伏修行体験


夜の山から宿坊に戻ると、様子が変わっていた。
暗幕が張り巡らされ、神前の広間には蝋燭が…
去年にはなかった行だ。
暗闇の中、静かな太鼓と鐘の音にあわせて、
翁面をつけた舞手が現れた。
田楽。豊穣を願う田遊びから発展した芸能で、能楽に繋がる。
張り詰めた空気の中で舞手がわずかに動くたびに、
その微動が空気を伝って肌に伝わるようだ。
突然叫び声をあげて翁が場から去った。
しばしの静寂。
静かな太鼓と鐘に誘われるように、白装束の素面の舞手が現れた。
動物とも虫ともつかない奇妙な動きで場の端から踊りでて、
顔を上げた瞬間ゾッとした。
この世のものとは思えない表情。
喜怒哀楽でもなく無表情でもない。
「異形」だ。
見てはいけない物を見てしまった…背筋がゾッと寒くなる。
延々と続く太鼓と鐘、唸るような唄、闇夜に浮かぶ奇異な動き。
いつ引き込まれて発狂してもおかしくない。

言葉には言いつくせないものを見た。
山伏などの民間宗教者は、芸能の担い手でもあった。
芸能とは何なのか。
それは、夜の山の中で、修行の中で、
垣間見たかもしれない神や異世界の記憶を、
形にとどめ、人々に伝えようとした行為なのではないだろうか。

舞手の森繁哉さんは東北を代表する舞踏家・研究者。
星野先達と旧知の仲で、体験修行のために一肌脱いでくれたそうだ。
今回最大の収穫だった。感謝。


三日目

4:00 起床
4:30 水垢離
5:00 羽黒山とそう行 床固め
8:00 火渡り
8:30 出生式
10:00 やまぶし温泉入浴
12:00 直会

早朝一番の祓川での禊。
最終日はそのまま羽黒山に登り、三山合祭殿に向かった。
初日と違い、長い長い石段をひたすらまっすぐ登っていくのだ。
昨日まではピンピンしていた身体も、さすがに三日目ともなると動かない。
最後の道のり、ただの石段が修行を通して一番辛く感じた。
金剛杖を両手で握り、よっこらせっと体を持ち上げていく。
長くて暗い道のり。
脚がもつれ始めた頃、光が差してきた。
石段の先の赤い鳥居から、朝日が差してきたのだ。
山に入ることは、胎内に入ることと同じ。
山伏は死装束で胎内をめぐり、再び生まれ変わることを修行とする。
だとすれば、最終目的地に差す光は、
子宮からもがき出ようとする赤子が最初に見る外界の光。
参道すなわち産道なのだ。
そしてそこには三山の神の祝福が待っていた。

大聖坊 山伏修行体験


合祭殿で最後の神事を終えると、不思議なことに足取りも軽くなっていた。
宿坊に戻ると庭に火が焚かれていた。
それを思いっきり飛び越える!
「おぎゃあ!!!」

「ホト」(女性器の古語)は「火戸」とも書き、
日本神話はイザナミが火の神カグツチを産み、
ホトを焼いて死んだところから物語が発展する。
出産と火は、太古から関連付けられていた。
火を生むことがまた、人が人して生きる証なのかもしれない。

俗世に生まれ変わった修行者たちは、温泉(産湯)に浸かって垢を落とし、
すっきりとした姿で参集した。
直会。
生まれたばかりだというのに、いきなりのご馳走と、大杯の酒。
なみなみ一升を注ぎこみ、皆で回し飲み。
私は調子にのって酒をぐうっと飲み干した。

残念がら、その後の記憶はない。(笑)
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